REAL ESTATE · 賃貸 vs 持ち家

賃貸か、持ち家か

永遠の問いに「正解」はない。しかし、判断軸を持つことはできる。

なぜこの問いは決着しないのか

「賃貸と持ち家、どちらが得か」。この問いは何十年も議論され続けているが、決着がつかない。理由は単純で、前提条件によって答えがまったく変わるからだ。

居住年数、金利、物件の立地、家族構成の変化、その人の収入の安定度。これらが一つ変わるだけで、シミュレーション結果は逆転する。

だからこそ、ここでは「どちらが得か」ではなく、「何を判断軸にすべきか」を整理する。自分の状況に照らして考えるための地図を提供したい。


持ち家派と賃貸派、それぞれの論拠

持ち家派の主張

  • ローン完済後、住居費が大幅に減る
  • インフレ局面で資産価値が維持される
  • 住宅ローン控除(最大13年、残高の0.7%)
  • 団信が生命保険の代わりになる
  • 自由にリフォーム・カスタマイズできる

賃貸派の主張

  • ライフステージに応じて住み替え自由
  • 修繕・設備更新の費用負担がない
  • 頭金を投資に回せる(機会費用)
  • 人口減少で不動産価値の下落リスク
  • 災害時の再建リスクを負わない

どちらにも合理的な根拠がある。問題は「一般論としてどちらが正しいか」ではなく、「自分の状況にとってどちらが合理的か」だ。


今の日本の住宅市場

判断するうえで、現在の市場環境を把握しておく必要がある。

住宅価格: 首都圏新築マンションの平均価格は8,000〜9,000万円(不動産経済研究所、2024年)。東京23区では1億円超が常態化している。一方で、地方都市では中古戸建てが数百万円台で購入できるエリアも多い。

金利動向: 日銀は2024年3月にマイナス金利を解除し、同年7月に追加利上げを実施した。住宅ローンの変動金利は0.3〜0.5%(メガバンク)だが、今後の上昇圧力がある。固定金利(フラット35)は1.5〜2.0%前後。

人口動態: 日本の人口は2024年時点で約1.24億人。2050年には1億人を割る見込み(国立社会保障・人口問題研究所)。野村総研は2033年に空き家率30%超と予測している。ただし、東京圏への人口流入は続いており、「東京は堅調・地方は下落」という二極化が進んでいる。


機会費用という視点

持ち家を買うとき、頭金として数百万〜数千万円を投じることになる。賃貸派が指摘するのは、この資金を株式市場に投じた場合のリターンだ。

S&P500の過去30年の年平均リターンは約10%(配当込み、名目値)。仮に1,000万円の頭金を年7%(インフレ調整後)で30年運用すると、約7,600万円になる計算だ。

もちろん、持ち家にも「家賃を払わなくて済む」という暗黙のリターンがある。月15万円の家賃を30年払えば5,400万円。これが持ち家の「見えないリターン」だ。

どちらが大きいかは、金利・家賃・運用リターン・物件価格の4変数で決まる。一般論では片付かない理由がここにある。


5つの判断軸

最終的な判断は、以下の5つの軸で考えるのが良い。

1. 居住年数: 同じ場所に10年以上住む見込みがあるなら、持ち家が有利になりやすい。5年未満なら、購入諸費用(物件価格の7〜8%)を回収する前に手放すことになる。

2. 転勤・転職の可能性: 会社員で転勤がある場合、持ち家は足かせになり得る。フリーランスや経営者で場所を選べるなら、この制約は小さい。

3. 家族構成の変化: 子どもの数、親の介護、パートナーとの関係。これらが変わると、必要な住居の広さも立地も変わる。変化が読めないうちは、賃貸の柔軟性が活きる。

4. 物件の立地: 人口が増えている地域(東京23区、主要都市の駅近)なら資産価値が維持されやすい。人口が減っている地域では、買った瞬間から価値が下がり続けるリスクがある。

5. 金利と自分の属性: 低金利を長期固定で借りられるなら、持ち家の経済的メリットは大きい。変動金利で借りる場合は、金利上昇シナリオでのシミュレーションを必ず行うこと。

「賃貸が得か、持ち家が得か」ではなく、「自分の人生設計に、どちらが合っているか」。問いを変えれば、答えは自ずと見えてくる。