日本最大の製薬会社にして、グローバルトップ10に迫る巨人。
Shireの巨額買収でGI・希少疾患・神経科学に強いパイプラインを獲得——日本の製薬企業が真のグローバル競争に入った象徴。
武田薬品工業は日本最大の製薬会社であり、売上規模ではグローバルトップ10に迫る存在だ。1781年に大阪で創業した240年以上の歴史を持つ老舗企業でありながら、2019年のアイルランド・Shire社の買収(約6.2兆円)という日本製薬史上最大規模のM&Aにより、その姿を一変させた。消化器疾患(GI)・希少疾患・神経科学・血漿分画製剤の4領域に経営資源を集中し、売上の約80%が海外由来という真のグローバル企業となっている。
Shire買収により、アデラール(ADHD治療薬)・ベリノン(希少疾患)・タクザイロ(遺伝性血管浮腫)など強力な希少疾患ポートフォリオを一気に手中に収めた。希少疾患薬は患者数が少ない一方で薬価が非常に高く、疾患の特性上長期継続処方が前提となるため、安定した高収益ストリームを生む。GI領域でも腸疾患治療薬エンタイビオが世界的なブロックバスターとなっており、複数の高額薬剤がポートフォリオを支えている。
長期投資家が注目すべきは、パイプライン(開発中薬剤)の充実度と特許切れへの対応だ。エンタイビオの特許期限が近づいており、これを次世代薬剤でどう補完するかが株価の最大の変数となる。現在30品目以上の後期臨床試験候補を抱えており、パイプラインの充実度は日本の製薬企業の中でも最大級だ。Shire買収後の財務負担(有利子負債数兆円)の削減も着実に進んでいる。
武田薬品の最大リスクは、Shire買収に伴う多額の有利子負債だ。買収直後の純有利子負債は5兆円を超えており、財務の柔軟性を大幅に損なった。資産売却と営業キャッシュフローによる返済が進んでいるものの、負債水準は依然として高く、新型危機や訴訟リスクへの耐久力が問われる局面も想定される。
特許切れリスクも深刻だ。エンタイビオ(腸疾患治療薬)は売上の20%以上を占めるブロックバスターだが、特許期限が近づいており、バイオシミラーの参入による売上減少は避けられない。ベルケード(多発性骨髄腫薬)の特許切れはすでに進行中だ。これらを補うパイプラインの成功率が、今後10年の業績を左右する。
為替リスクも無視できない。売上の80%が海外由来であるため、円高が進めば円換算の業績を直撃する。また、米国・欧州での薬価引き下げ圧力(インフレ抑制法等による薬価交渉制度)も中長期の収益を圧迫する可能性がある。グローバル製薬企業としての規模は強みである一方、政治的・規制的リスクにもさらされやすい。