「エンハーツ」というがん治療の革命的薬剤を持つ、今最も注目される製薬会社。
抗体薬物複合体(ADC)という新技術で世界をリード——AstraZenecaとの3兆円超の提携がその価値を証明した。
第一三共は抗体薬物複合体(ADC=Antibody Drug Conjugate)技術において世界のフロントランナーとなった企業だ。ADCとは、がん細胞に特異的に結合する抗体と、強力な抗がん剤をリンカー(連結分子)で結合させた薬剤で、「魔法の弾丸」とも呼ばれる。がん細胞だけを狙い撃ちにすることで従来の抗がん剤の副作用を大幅に低減しながら、強力な抗腫瘍効果を発揮する。
主力薬「エンハーツ」(トラスツズマブデルクステカン)は、乳がん・胃がん・肺がんにおいて画期的な臨床試験成績を示し、がん治療のパラダイムを書き換えつつある。英国AstraZenecaとのADC薬剤の共同開発・販売提携(最大約3.4兆円規模)は日本製薬史上最大規模であり、世界最大級の製薬会社がADC技術の価値を公式に認めたことを意味する。この提携によりエンハーツの世界展開が加速し、売上は急成長中だ。
ADCパイプラインの広がりも注目に値する。第一三共はエンハーツのほかに4〜5つのADC候補薬を開発中であり、乳がん・肺がん・卵巣がん・膀胱がんなど複数のがん種への展開を進めている。ADC製造は高度な技術が必要で参入障壁が高く、先行企業が技術・ノウハウ・製造インフラで後発を引き離す構造がある。AstraZenecaとの提携後、ファイザー・メルクなども独自のADC開発を強化しており、競争は激化しているが第一三共のリードは大きい。
最大のリスクはエンハーツへの売上集中だ。急成長中とはいえ、現時点では第一三共の業績の大部分がエンハーツの成否に依存しており、臨床試験の失敗・副作用問題・競合薬の台頭が直接的に業績を直撃するリスクがある。ADC分野ではファイザー(シージェン買収)・メルク・ロシュなどのグローバル大手も本格参入しており、技術競争の激化が続く。
AstraZenecaへの依存リスクも存在する。グローバル販売はAstraZenecaを通じた展開に大きく依存しており、両社の関係変化や提携条件の変更が収益構造を変える可能性がある。また、がん治療薬は特許切れ後もバイオシミラーよりは模倣困難だが、ADC技術自体が特許切れ後に一般化すれば競争環境は一変する。
製造リスクも見逃せない。ADCは抗体・リンカー・薬物の3要素を精密に結合させる高度な製造技術が必要で、品質管理が非常に難しい。製造トラブルや供給不足が発生した場合、販売計画の大幅な狂いにつながる。また、がん治療薬全般に言えることだが、新たな治療モダリティ(CAR-T療法等)の台頭が既存のADC薬剤を陳腐化させるリスクも中長期的に存在する。