ロシュという世界最強の製薬会社の傘下で、日本最高の研究効率を誇る製薬会社。
「バイオ抗体医薬」に特化した研究力と、ロシュの世界販売網——日本の製薬企業で最も投資効率が高い。
中外製薬はスイスのロシュが約60%を保有する親子上場企業だ。2002年にロシュの戦略的パートナーとなって以来、「自立的協調」というユニークなモデルで成長を続けている。ロシュとのパートナーシップにより、日本での独占的な販売権とロシュの世界販売網へのアクセスを得るとともに、研究開発の自律性も保持している。時価総額は国内製薬企業の中でトップ水準に位置し、ROE25%超という日本の大企業では突出した収益効率を誇る。
主力製品は関節リウマチ・全身性炎症疾患治療薬「アクテムラ(IL-6阻害剤)」と、血友病B治療薬「ヘムライブラ」だ。アクテムラはCOVID-19重症患者への適応拡大でも注目を集め、世界販売で大きな成功を収めた。ヘムライブラは従来の血友病B治療では困難だった皮下注射投与を可能にした革新的薬剤で、血友病治療の標準治療を変えつつある。両薬剤ともロシュのグローバル販売網を通じて世界に展開されている。
注目すべきは中外製薬独自のバイオ抗体工学技術(MABIX法等)だ。ヒト抗体の構造を改変して薬剤としての性能を高める技術で、これが革新的新薬の継続的な創出を支えている。パイプラインにはがん・神経疾患・骨代謝異常などの領域にわたる複数の有望候補薬があり、次世代の成長エンジンが整備されつつある。研究開発費の効率はROEに反映されており、R&D投資が収益に転化される速度は日本の製薬大手で最も高い。
最大のリスクはロシュとの関係変化だ。ロシュが60%超を保有するため、中外製薬の経営独立性はある意味でロシュの意向に依存している。ロシュが中外製薬を完全子会社化する可能性(TOB)は常にあり、それが上場廃止につながれば株主にとって一大イベントとなる。また、ロシュ自身の経営方針や財務状況の変化が、中外製薬への影響を及ぼすリスクもある。
特許切れリスクも看過できない。主力のアクテムラの特許期限は到来しており、すでに欧米市場ではバイオシミラー(生物学的後発医薬品)が参入し始めている。バイオシミラーは低分子後発品と異なり医師・患者が自動的に切り替えるわけではないが、薬価低下圧力はかかる。ヘムライブラの特許期限も将来的な課題であり、その前にパイプラインの次世代候補薬が収益化できるかが問われる。
パイプライン集中リスクとして、有望候補薬が特定の疾患領域に偏っていることも挙げられる。また、日本国内での薬価制度改革(薬価の毎年改定)は全製薬企業に共通のリスクだが、高利益率企業ほど薬価引き下げのターゲットとなりやすく、中外製薬も例外ではない。