LEHMAN CRISIS — DEEP DIVE
SUBPRIME · NINJA LOAN · ARM

サブプライムローンの実態

The Anatomy of Toxic Loans

年収$14,000のイチゴ摘み労働者が$720,000の住宅ローンを組めた時代。
「住宅価格は下がらない」という神話が、すべての前提だった。

「嘘つきローン」の正体

サブプライムローンとは、信用力の低い借り手向けの住宅ローンである。しかし2000年代に広がったのは、それ以上に異常なローンだった。

業界内でNINJA Loan(No Income, No Job, No Assets)と呼ばれた自己申告型ローン。借り手が収入を申告し、貸し手はそれを検証しない。正式名称は「Stated Income Loan」だが、現場では「Liar's Loan(嘘つきローン)」と呼ばれていた。

金融危機調査委員会(FCIC)の報告書には、カリフォルニア州のイチゴ摘み労働者(年収約$14,000)が$720,000の住宅ローンを組めた事例が記録されている。年収の50倍を超えるローンが、審査をすり抜けた。

2006年時点で、新規住宅ローンの約40%がサブプライムまたはAlt-A(検証緩和型)ローンだった。


ARM金利の罠 ── 「2/28」型の時限爆弾

サブプライムローンの多くはARM(Adjustable Rate Mortgage、変動金利型)で組まれた。特に「2/28」型が典型だった。

  • 最初の2年間 ── ティーザーレート(誘引金利)で2〜3%の低金利
  • 残りの28年間 ── 市場金利に連動し、6〜12%に跳ね上がる

借り手には「2年後に借り換え(リファイナンス)すればいい」と説明された。住宅価格が上がり続ける限り、担保価値が増えるので借り換えは容易だった。

しかし住宅価格が下落に転じると、借り換えは不可能になる。金利が跳ね上がったローンを払えなくなった借り手が、大量にデフォルトした。これが連鎖崩壊の起点となる。

「住宅価格が上がり続ける」── この一つの前提が崩れるだけで、すべてが逆回転する構造だった。


カントリーワイド ── 全米最大の住宅ローン工場

Countrywide Financial(カントリーワイド)は全米最大のモーゲージ貸付業者だった。CEOのアンジェロ・モジーロは「すべてのアメリカ人に住宅を」と掲げ、2006年には$4,680億のローンを組成した。

しかしモジーロは内部メールで矛盾した認識を示していた。

  • 「我々が組成しているローンの一部は有毒(toxic)だ」── 自社のローンの質を懸念するメール
  • 同時期に自社株を大量売却 ── 2004〜2008年に約$1.4億相当を売却

カントリーワイドは2008年1月にバンク・オブ・アメリカに買収される。モジーロはSECから詐欺で訴えられ、$6,750万の和解金を支払った。


「組成して売却」── インセンティブの歪み

なぜ返済能力のない借り手にローンが供給されたのか。答えは「Originate-to-Distribute(組成して売却)」モデルにある。

従来の銀行は、ローンを組成し、返済完了まで自分で保有した。借り手が返済できなければ銀行が損をする。だから審査は厳しかった。

しかし証券化の時代には、ローンは組成された直後にウォール街に売却され、MBS(住宅ローン担保証券)として世界中の投資家に販売された。

  • ローンオフィサー ── ローンを組めば組むほどボーナスが増える。ローンの質は問われない
  • 貸付業者 ── 組成したローンを即座に売却。デフォルトリスクは手元に残らない
  • 投資銀行 ── ローンを束ねて証券化し、手数料を得る。証券も投資家に売却

全員が短期的な手数料で利益を得て、誰もローンの最終的なリスクを負わない。この構造が、審査基準の底抜けを生んだ。

リスクを負う者がいなくなったとき、リスクは消えたのではない。見えなくなっただけだ。
そしてそのリスクは、世界中の投資家のポートフォリオに静かに埋め込まれていた。


住宅市場崩壊の規模

ケース・シラー住宅価格指数で見る、バブルとその崩壊。

指標数値
バブル期の上昇率(1997〜2006年)約124%上昇
ピーク2006年7月(指数値 206.52)
底値2012年2月頃(指数値 約134)
全国平均の下落率約35%
ラスベガス約62%下落
フェニックス約56%下落
マイアミ約51%下落
消失した住宅資産価値約$6兆

差し押さえ件数は2006年の約72万件から2010年には約290万件に急増。2007年から2012年の累計で1,000万件以上の住宅が差し押さえとなった。

DEEP DIVE — LEHMAN CRISIS

サブプライムローンは、証券化の連鎖によって世界中に拡散された。