発行体支払いモデル ── 構造的な利益相反
格付け会社(ムーディーズ、S&P、フィッチ)は、金融商品の信用力を評価し、格付けを付与する。投資家はこの格付けを信頼して投資判断を行う。AAAは最も安全、Dはデフォルト。
問題は、格付けの対価を誰が支払うかだった。
かつて格付け会社の収益は、投資家が購読料を払うモデルだった。しかし1970年代以降、証券を発行する側(投資銀行)が格付け手数料を支払う「発行体支払いモデル」に転換した。
これは、レストランの衛生検査官の給料をレストランが払うようなものである。
- 格付け会社の収益の約40〜50%がストラクチャード・ファイナンス(証券化商品)の格付けから
- この収益は2002年の$3億から2007年には$30億超に急増
- ムーディーズの株価は2001年から2007年で約3倍に上昇
格付けを厳しくすれば顧客を失い、収益が減る。甘くすれば顧客が増え、収益が伸びる。構造的に、甘い格付けへのインセンティブが組み込まれていた。
格付けショッピング ── 最も甘い審査を買う
発行体(投資銀行)は、3つの格付け会社すべてに予備的な格付けを依頼できた。そして最も高い格付けを出す会社に正式依頼する。
格付け会社側もこの力学を理解していた。厳しい格付けを出せば、次のディールで選ばれない。業界用語で「rating shopping(格付けショッピング)」と呼ばれるこの慣行が、格付けの底上げ競争を生んだ。
内部メール・証言 ── 知っていて黙認した
金融危機調査委員会(FCIC)が明らかにした内部コミュニケーションは、格付け会社が問題を認識しながら放置していたことを示す。
(牛が組成したディールでも格付けする)
(このディールは馬鹿げている...モデルがこれを反映していない)
(モデルが正しくないことは明らかで、全員がそれを知っている)
(我々は収益のために評判を売っている)
格付け会社のアナリストたちは、モデルの欠陥を認識していた。CDOの格付けモデルは、全米の住宅価格が同時に下落するシナリオを想定していなかった。しかし収益を守るために、モデルは修正されなかった。
格付けの崩壊 ── 大量格下げの連鎖
2007年後半から2008年にかけて、かつてAAAを付与されたCDOが大量に格下げされた。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 2006年にムーディーズが格付けしたMBSのうち、後にダウングレードされた割合 | 83% |
| 2007年7〜12月のAAA格CDOの格下げ件数 | 数千件 |
| 格下げの速度 | AAAから一気にジャンク級(CCC以下)への「フリーフォール」が多発 |
格付けが信頼性を失ったことで、投資家はすべてのストラクチャード商品を疑い始めた。市場の流動性が一気に蒸発し、価格がつかなくなった。これが信用収縮の連鎖を引き起こす。
格付け会社は金融システムの「門番(gatekeeper)」だった。
その門番が、収益のために門を開け放したとき、投資家が頼れる最後の防衛線が消えた。