住宅ローン担保証券 ── 証券化の第一段階
MBS(Mortgage-Backed Securities、住宅ローン担保証券)は、数千件の住宅ローンをプールし、そのキャッシュフロー(毎月の返済金)を証券化した金融商品である。
投資家はMBSを購入することで、住宅ローンの返済金の一部を受け取る。借り手が毎月ローンを返済する限り、安定した利回りが得られる。
MBSはトランシェ(tranche、フランス語で「スライス」)構造で分割される。
- シニア・トランシェ(AAA格、約80%) ── 最も安全。損失が発生しても最後に影響を受ける
- メザニン・トランシェ(AA〜BBB格、約15%) ── 中間リスク
- エクイティ・トランシェ(格付けなし、約5%) ── 最も危険。損失を最初に吸収する
2007年時点でMBS市場の規模は約$7.3兆。米国国債市場に匹敵する巨大市場だった。
CDO ── BBBがAAAに変わる魔法
MBSのシニア・トランシェ(AAA格)は飛ぶように売れた。しかしメザニン・トランシェ(BBB格)は売れ残る。
そこでウォール街が編み出したのがCDO(Collateralized Debt Obligation、債務担保証券)である。
売れ残ったBBBトランシェを大量に集めて新しいプールを作り、再びトランシェ構造で分割する。すると、その新しいプールの上位80%が再びAAA格に格付けされる。
これがCDO²(CDOのCDO)である。元のローンから3段階離れ、リスクの追跡は事実上不可能になった。
2007年時点でCDO市場の規模は約$1.3兆。
格付け会社の論理は「異なる地域のローンを束ねれば分散効果でリスクが下がる」というものだった。
しかし全米の住宅価格が同時に下落する事態が来たとき、分散は幻想だったと判明する。
合成CDO ── 原資産なきリスクの増幅
さらに異常だったのが合成CDO(Synthetic CDO)である。
通常のCDOは実際の住宅ローンを裏付けに持つ。しかし合成CDOは、CDS(Credit Default Swap)で構成され、実際のローンを1件も保有していない。
CDSとは、ある証券がデフォルトした場合に支払いを受けられる契約である。保険に似ているが、決定的な違いがある。
- 保険 ── 実際に家を持っている人だけが火災保険をかけられる
- CDS ── 他人の家にも火災保険をかけられる。しかも何件でも
これにより、1つのサブプライムローンのリスクが10倍、20倍に増幅された。原資産の何倍ものリスクが金融システム内に生み出された。
ゴールドマン・サックスが組成したABACUS 2007-AC1は、この合成CDOの象徴的事例である。ヘッジファンドのジョン・ポールソンが「最も破綻しやすい」サブプライム証券を選定し、ゴールドマンがそれを「独立した第三者が選定した」と投資家に説明して販売した。投資家は約$10億の損失、ポールソンは約$10億の利益を得た。
CDS市場 ── $62兆の影の爆弾
CDS市場の想定元本は、2000年のわずか$9,000億から、2007年末には約$62兆に膨張した。世界のGDP合計とほぼ同額である。
CDSは規制されていないOTC(店頭)デリバティブだった。取引所を通さず、担保要件も不十分。誰がどれだけのリスクを抱えているか、全体像を把握している者は誰もいなかった。
最大のCDS売り手がAIG Financial Productsだった。ロンドン拠点のわずか400人のチームが、$4,400億以上のCDSを発行していた。責任者ジョセフ・カッサーノは2007年8月にこう断言した。
「我々のCDSポートフォリオから1ドルでも損失が出るシナリオは想像しがたい」
— ジョセフ・カッサーノ、AIG Financial Products、2007年8月
AIGは保険と同じ機能のCDSを大量発行しながら、保険会社と違い、支払い準備金(引当金)を一切積み立てていなかった。住宅価格がわずか5%下がるだけで破綻する構造だった。