2008年9月15日、何が起きたのか
2008年9月15日、月曜日の早朝。ニューヨーク、マンハッタンのミッドタウンにあるリーマン・ブラザーズの本社ビルから、段ボール箱を抱えた社員たちが次々と出てきた。158年の歴史を持つ全米第4位の投資銀行が、連邦破産法第11章の適用を申請した。負債総額6130億ドル。アメリカ史上最大の企業倒産だった。
この日を境に、世界の金融システムは凍りついた。銀行は互いを信用せず、企業は資金を調達できず、株式市場は暴落した。ダウ工業株平均は2007年10月の14,164ドルから2009年3月には6,547ドルまで下落し、時価総額にして数十兆ドルが消えた。アメリカだけで870万人が職を失い、400万世帯が家を失った。
しかし、この危機は「突然」訪れたわけではない。住宅バブル、サブプライムローン、CDO(債務担保証券)、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)── 危機の種は何年も前から蒔かれていた。そして、ごく少数の人間だけがそれに気づいていた。
マイケル・ルイスのノンフィクション『世紀の空売り(The Big Short)』は、その「気づいた者たち」の物語である。2015年にアダム・マッケイ監督が映画化した『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は、アカデミー賞脚色賞を受賞し、複雑な金融商品の仕組みを一般の観客にも理解できる形で描き出した。
この書庫では、映画の視点と実際の歴史を融合させながら、リーマン・ショックの全貌を6つの章で読み解いていく。
6つの章で読み解く金融危機
それぞれの章は独立して読むこともできるが、順番に読むことで危機の全体像がより鮮明に見えてくる。
「真実は、みんなが嘘をついているのではない。
みんなが、本当のことを知ろうとしなかっただけだ。」
リーマン・ショックは、単なる金融事件ではない。人間の欲望、制度の欠陥、そして「見たくないものを見ない」という集団的心理が生んだ構造的な破綻だった。
マイケル・ルイスはこう書いている。「ウォール街の問題は、人々が悪意を持っていたことではない。誰も自分がやっていることの意味を理解していなかったことだ。」
2008年の危機から15年以上が経った今も、金融システムには新たなリスクが蓄積し続けている。歴史は繰り返さないが、韻を踏む。この書庫が、次の「マネー・ショート」を読み解く力になることを願っている。